ジャガイモの芽かきと土寄せ
賀茂川
2016/02/11(木) 08:14:57
ジャガイモは芽が出たら2,3本に芽かきしろ、茎が伸びてきたら土寄せをしろと言われます。いずれも理にかなった説明のように思われるのですが、北海道の地平線のかなたまで広がるジャガイモ畑でそんなことしているのかなあ? という疑問がいつもあります。あれだけの広い畑で、芽かきや土寄せをするほどの労力と時間がよく作り出せるなと思うのですが、本当のところはどうなんでしょうか。栽培農家の方に聞いたら、一発で分かるとは思いますが、北海道の栽培農家に知り合いがいないので、代わりに教えていただければ幸いです。
ばんざいうさぎ
【北海道】
2016/02/11(木) 17:10:09
親戚が農家でジャガイモ栽培もしていて自分もよく農作業のアルバイトへ行っていました。
ジャガイモの芽かきも土寄せも農家はちゃんとしていますよ。土寄せに関しては何の問題もありません。農業用トラクターに土寄せ用の刃が数個並んでいる部品(申し訳ありませんが専門用語が解りません)を取り付けて畝に沿って走らせれば数本の畝間をいっぺんに適度に削り取った土で土寄せ出来ます。農業トラクターにはいろんな農作業用の付属部品が簡単にジョイントできるようになっていて、取り換え次第で万能に使えますし、お金に余裕のある農家や何軒かの農家が共同で土寄せ専用の大型農作業用車両を一台購入する場合もあります。ジャガイモの大産地なら農協の方からスケジュールを組んで貸し出している所もありますし。私の住む地域は小麦産地ですが大型ハーべスターを共同で所有していたり農協から借りるので使用順序があり期日中に終わらせないと成らないので(農協を通していると貯蔵倉庫への搬入日も決められている)収穫期には真夜中にライトを付けて収穫している畑も多いです。
ただジャガイモの芽かきはやはり人の目で見て手で丁寧に取らないと、もし機械お任せではちゃんとできません。酷いと全ての芽を取りかねないですし・・・。
北海道の農家には個人経営と、何軒か近所共同で経営したり、しっかりと組織化されている営農集団があります。共同の農家や営農集団だと畑は皆共通の持ち物ですから何家族もいる集団なら十分に人手は間に合いますが、個人経営の場合だと家族だけの人数ではとても数日の間には終えられませんよね。
実は北海道独自のシステムが有るんですよ。
北海道の農業は明治期からの開拓時代にアメリカから伝わった物です。アメリカの畑だと北海道よりもっと何倍も広大で地平線が見えないくらい。農場も大きいのですが家族だけでは仕事に成らず、ずっと雇っている使用人を何人か近くに住まわせています。でも、芽かきの様な数日だけがとても忙しく、時期を逃さないうちに早く終わらせるには多くの人出が必要でいつもの使用人だけでは足りません・・・。
まだ奴隷制度があった時代には農場ではかなりの黒人奴隷の方々を所有しており監視人を雇って無理に重労働をさせていましたが、黒人解放後は黒人の方々はそれぞれ独立し、自ら望んで雇ってもらい残った人以外は余所の土地に移り人手が格段に減ってしまいました。それで農繁期に収穫作業を円滑にするために「季節労働者を雇う」と言う方法がとられました。
土地を移動しながらその時期により違う農場で農業の補佐をする職種があり、アメリカ中を回って農繁期だけ手伝ってくれる臨時雇い専門で働く人達が居るんです。男の人一人で参加していたり子供の手が離れた夫婦で来たり、大人だけの構成の家族で来たり。特に統率されたグループ組織と言うわけでもないらしいのですが、リーダーらしき存在が居て毎年ほぼ同じメンバーが集まっていたらしいです。待遇がほぼ良くて雇い主との信頼関係が築けたら時期になると連絡せずとも毎年ちゃんと来てくれると言うのは何となく日本の日本酒を仕込むときの杜氏さん達との関係とも似ていますね。アメリカやヨーロッパでは野菜農家の他に果樹園専門で収穫しにくる人も居るそうで特にヨーロッパだとワイナリーでブドウ摘みとワインを仕込む専門で点々と各地を回った職種の人も居たらしいです。でも現在は農業も機械化が進んでそういう点々と移り住みながら農繁期を手伝う人々は流石に減ってきたらしく、欧米でも農繁期には親戚や知り合いに手伝ってもらったり、作業以外の好待遇を示してインターネットで募集したりするそうです。
おそらくアメリカ農業の習慣から来ているのでしょうが、北海道でも農家で季節労働者を雇うのです。ただしほとんどが地元の人で、ほぼ中年以降の女の方。要するに農作業専門の補佐の短期アルバイトですね。
北海道ではこの人達を親しみを込めて「出面さん(でめんさん)」と呼びます。アメリカ英語で日雇い労働者の事を昔はDay Menと呼んでいたらしく、北海道でアメリカ式農業技術が普及する時に呼び名をそのまま使い、それに後で漢字を当て字したらしいです。アメリカ式農業がずっと全道各地に伝わったので北海道では農機具のどれもがアメリカ由来の形の物を使い今でも英語そのままの名前で呼びます。この言葉もその中の一つなのでしょう。
出面さんは主に2通りいます。農協に登録していて農協から依頼のあった農家に派遣される「派遣型出面さん」と、農家個人で頼み手伝いに来てもらう「昔ながらの出面さん」。
農協から派遣される出面さんは元農家で離農した家の奥さんや、元々実家で農業をしていて農業経験のある人達が多く、その人その人の適性を見て向いている作業現場に出す様です。派遣先次第で農家は出面さんの家から近かったり遠かったり毎回違い作業が終われば農協が送迎バスで家の傍まで送ってくれます。
昔ながらの出面さんは農家で代々の付き合いがある人が多く、基本的に農家専属の様な存在が多く技術も高く農家の信頼も厚いです。働きの良い出面さんほど賃金など待遇を良くし農家は手放そうとしません。
出面さんが必要な時期が近づくと農家自身が出面さんの家に連絡し何日から何日間来て欲しいと依頼します。経験豊富な信用のおける人から揃えていき、もし人数が足りないなら評判を聞いて連絡したり人づてに紹介してもらいフリーの出面さんや、人数がどうしても揃わない場合は出面の経験の無い人農作業経験が無かった人にも来てもらいます。
専属の出面さんはお年を召した近くに住む老齢の元気な女性がほとんどでご家族のお仕事は農家に何の関係もありません。でも中には若い時から来ているなど農家とは長い付き合いなので先代の時から来てくれていればほぼ親戚の様な存在です。実際近郊から親戚が来て出面さんと一緒に作業することもあり、そういう親戚への報酬は現金よりも出荷には向かないハネ品の現物支給である事が多いです。
フリーの出面さんというのは経験は豊富でも専属になるのが性に合わなかったり、事情があってすべての日程や時間帯に働くのは無理な人。中には賃金が良い農家を渡り歩く人もいます。農家が仕事ぶりを見ていてその農家の農作業が性格的に合わなかったり思ったほどの働きは無いと判断すれば次の年にはもう頼みません。
あと、人数確保の為に農業経験の無い人も使えそうなら積極的に雇ってみます。農業地帯で休日が合えば男子高校生をアルバイトで雇ったり、子育てなどで共働き出来なくて定職にはつけないけど短期アルバイトなら都合を付けて出来る主婦で、農作業のやる気がある方など。
男子高校生で農業アルバイトに来る子は若いし大抵体力が有るので単純作業であれば最初にやり方さえ教えておくと結構な戦力になりますが休日しかこれません。主婦の人の場合は農家が作業に向かないと判断すれば芽かきの期間中は来てもらいますが次回からの連絡はしません。
ただ、主婦の人の中にたまに感が良く動きが機敏で農作業向きな資質を持つ人が居て、そういう人は「出面にならないか」と農家にスカウトされる事があります。そして条件さえ合えば出面見習いとして来られる時だけなるべく来てもらって専属出面さんから効率良い技術の指導を受けながら働いて貰い、子育てが一段落ついて働けるようになり定職に就かないのなら農繁期に来てもらえるようにお願いし新たな出面さんとして来てもらいます。
昔は農家が毎年頼む固定型の出面さんしか存在しませんでした。でも農家自体が離農してしまったり、寄る年波で出面さんも農作業が出来なくなったりで働き場所を失ったり人を集めにくくなってきて今は農協派遣型の出面さんが多くなってきた様です。でも農協に登録している出面さんも登録人数は決して多くは無いので非常に忙しい時には農協の事務職の人や自分の所の作業が終わった農家仲間も頼むことが有るそうです。
北海道の農業の場合、農家は忙しくない時期なら家族だけで作業を行えられますが、農繁期はこういう裏方さんの存在なしには農家はやっていけません。
昔は農家も腕の良い出面さんが毎年来てくれるようにと待遇面にはとても気を付けていて、10時と3時のオヤツ用に出すお菓子とジュースを店に大量注文したり余所よりグレードを上げたり、作業終わりの慰安に温泉や近場の観光地へ泊まり込みで行ったり。賃金も能力次第で出来るだけ上乗せしていた様です。なのでこの辺でも普段は普通の家のお祖母さんなのに農繁期だけプロの出面さんとして忙しく働いて、終わると慰安で温泉旅行に行くのが楽しみでという方も多く、みなさんその仕事に誇りを持っていました。農家側も雇っていると言うよりも「来てもらっている」と言うスタンスで、あくまでも雇い人として扱う農家やその家族だと賃金が良くても扱いが悪いので専属の出面さんが居つかないと言う感じでした。
今は農協派遣型の出面だと固定給ですから派遣先の作業で適度に手を抜く人も居るらしく、農家の娘であり親戚の農家の手伝いにも慣れている私の母が一時期実家がある地元農協の派遣の出面をしていましたが、一緒に働く人によっては真面目に働く人が損をしてると感じたそうで、今やプロ意識を持つ出面さんは絶滅危惧種の様な存在の様です・・・。
ばんざいうさぎ
2016/02/11(木) 17:22:16
すみません、訂正です・・・。
出面さんの種類分けで、
誤)昔ながらの出面さんは「農家で」代々の付き合いがある人が多く
ではなく、
正)昔ながらの出面さんは「農家と」代々の付き合いがある人が多く
です。
賀茂川
2016/02/12(金) 23:34:45
[[解決]]
ばんざいうさぎさん 素晴らしいご回答をありがとうございます。
まさしく目から鱗です。出面さんと言われて、地元京都府内の宇治茶の里でも季節にはお茶摘み娘が大活躍します。ご近所のおばちゃんとか、畑専属のようなお馴染みさんが多いようです。
広大な畑で、芽かきなんて出来っこないと思いこんでいたわが身が恥ずかしいです。ありがとうございました。ご丁寧なご回答を賜りましたこと、心から感謝申し上げます。
野菜・家庭菜園用掲示板@園芸相談センター